魂の人間讃歌  ジャズと人生と仏法を語る

魂の人間讃歌  ジャズと人生と仏法を語る

第15回(最終回) 勇気の調べを青年と共に(2011.12.2/3/5付 聖教新聞)

人間革命の響きを地球革命のために

ショーター 日本では創価青年大会が、合唱あり演奏ありで、各地で賑やかに行われていると聞きました。音楽とともに沸き立つ力で、青年の連帯が広がっていくことは、心躍ります。
 古代ローマでは、凱旋した将軍シーザーたちを、楽団の演奏が迎えました。
 そのように、音楽は戦争のために用いられることもありましたが、今は、平和のリーダーたちのために、創価の音楽隊や鼓笛隊などの友が、栄光の音楽を奏でてくれていますね。
池田 広宣流布は、明日の世界に、人間主義の永遠の都を築き、民衆勝利の凱歌を奏でゆく壮大な運動です。
 その颯爽たる旗手が、音楽隊や鼓笛隊、さらにオーケストラ、合唱団等のメンバーです。仕事や学業に真剣に励みながら、努力を重ね、文化運動を力強く推進してくれています。
 それは、新たな人材群の大いなる潮流でもあります。音楽を心の友として、尊い「信」「行」「学」の錬磨の青春を走り抜いた人材が、二陣三陣と躍り出て堂々と各界で活躍している。こんなに嬉しいことはありません。
ハンコック アメリカの独立の戦いの時には、音楽隊の行進が皆を鼓舞しました。平和的な組織であるSGI(創価学会インタナショナル)において、わが音楽隊の友らが奏でる力強い楽曲は、私たち自身の生命の根本的な迷いである「元品の無明」との間断なき戦いに勇気を与えてくれるのです。
池田 まさしく、勇壮な「人間革命の響き」です。「正義の行進曲」です。
 ショーターさんとハンコックさんのお二人が、ジャズを通して人々を啓発し、多くの青少年に勇気と希望を贈ってこられたことも、偉大な歴史です。
ハンコック ありがとうございます。池田先生が見守ってくださっているおかげです。
 ウェインと私は、ジャズ・ピアノの偉人にちなんで名付けられた「セロニアス・モンク・ジャズ研究所」という教育機関の設立当初から関わってきました。この数年間、私が代表も務めてきました。「10代の若者の人間性向上に役立てたい」「21世紀には文化や教育がより重要になる」との思いからです。ヨーロッパの学生たちがバッハやモーツァルト、ベートーベン等を知るのと同じように、ジャズがアメリカの歴史の一部であると認識されるよう、セロニアス・モンク・ジャズ研究所では小学校や中学・高校等での授業プログラムも持っています。
 また、アメリカ国務省と連携し、世界を舞台に活動しています。昨年の上海万博でも依頼を受け、演奏しました。ジャズは国際的な音楽ですから、アメリカと他国のかけ橋の機能も果たしているのです。
ショーター ベトナムへ演奏に行った時のことです。記者会見の席で興味深い話し合いが行われました。あるNGO(非政府組織)に同行していたアメリカ人ジャーナリストが、国務省のスタッフの一人に、この地にジャズを紹介することの素晴らしさを語りました。それに応じ、その女性スタッフは言いました。「ジャズは芸術性の高い音楽ですから、人々がそれに接してよい影響を受けるようにしなければなりません。私たちは、その手助けをしたいのです」と。
 ジャズの勝利だと思いました。ジャズが「創造」を旨とする音楽であるという芸術性を、国務省から来た一人の女性が深く認識していたからです。まさにジャズがアメリカを代表する芸術であることを示しているのです。
池田 その通りですね。アメリカという新天地で、言いしれぬ苦労を重ねてきたアフリカ系の人々の中から、ジャズが生み出され、そして今や、アメリカはもとより、人類の宝として愛されている。これは、文化の力の真髄です。
ハンコック この研究所の活動の一環で一昨年、キング博士の子息であるマーチン・ルーサー・キング3世および8人の連邦議会議員と一緒にインドに行く機会がありました。キング博士の「インド旅50周年」を祝賀するためです。私たちは学生バンドと一緒に参加しました。その時、現地を訪問中に、私は偉大なタブラ(古典打楽器)奏者であるSGIメンバーとも会うことができました!
池田 世界の旅先で同志と出会うことほど、嬉しいことはありませんね。
 半世紀前のキング博士のインド訪問の足跡については、ガンジー記念館元館長のラダクリシュナン博士とも語り合いました。マハトマ・ガンジーの思想を人権闘争の範としたキング博士が、このインド訪問を「巡礼」と意義づけていたことも紹介されていました。
 ラダクリシュナン博士ご自身も、アトランタを訪れた際、キング3世と母上(コレッタ夫人)から受けた温かな歓迎を思い出深く語られていました。
 ガンジーとキング博士の非暴力の魂の共鳴を、私たちはさらに強く深く広げていきたいものです。
 ショーターさんも、後輩を立派に育ててこられましたね。若い楽団員たちから「どれほど啓発されたか分からない」と感謝されていると伺っています。ショーターさんの生き方から、「自分たちにも次の世代へ伝えるべき深い使命があるということを学んだ」と語っているとも聞きました。
ショーター ありがとうございます。私がやっていることは、いわば裏方の働きです。人間の精神を向上させる仕事です。
 若い楽団員たちは皆、私の半分ほどの年齢ですが、私がどんな目的を持って行動しているのかについて話し合っています。
 彼ら全員が“音楽の目的は何か”について思索し、次代のミュージシャンたちに何を伝えるべきかを深く認識してくれています。
        ♪
池田 「若さ」には何ものにも勝る力があり、創造へのエネルギーがあります。
 御書に「従藍而青」という言葉があります。後継者が立派に成長していくことの譬えとして用いられています。
 「青は藍より出でて、しかも藍より青し」──私たちで言えば、後輩を励まし伸ばして、自分以上の偉大な人にしていくことにも通じるでしょう。
 中国の周恩来総理も、「若い人たちが成長したのは、年輩の人たちが手塩にかけて育てたから」(中共中央文献編集委員会『周恩来選集』外文出版社)と言っていましたね。これは、古今東西、変わらぬ道理でしょう。
ハンコック 本当にそうですね。「イマジン・プロジェクト」というアルバムを共同で作り上げたグループの一つに、西アフリカのマリ北部出身の「ティナリウェン」という楽団があります。その楽団と一緒に作った歌に、「若者と自分の体験を分かち合う」「若者の声を聞く」という内容が入っていました。体験から学んだ智慧を共有することは、人を育てるのに不可欠です。
 私が若かったころ、音楽的に成長を遂げるための答えを探し求めていた時、本当に多くの音楽の先輩たちが自分たちの体験を分かち合ってくださり、励まし、助けてくれました。
 今、わが人生を振り返ると、もし自らの体験を喜んで共有してくれたあの先輩たちがいなかったら、今日の自分はなかったと実感します。だからこそ私も、若者に自分の体験を分かち合うというジャズの伝統を引き継ぎたいと思っています。私の体験がちょっとでも彼らの成長に役立ち、何らかの糧になればと思っています。
池田 大事なお話です。「あの人がいたから、今の自分がある」──それは、多くの学会員が持っている感謝の真情でしょう。
 青年を育てるには、「会う」「語る」そして「一緒に行動する」ことです。「体験を共有し合う」ことです。「断じて、この人を人材に」という情熱を持って、真剣に祈り、真心を尽くしたことは、必ず相手の心に「種」となって残ります。今は目に見えなくとも、必ず大きく花開く時が来ます。
 私が青年時代から心してきたのも、この一点です。
 仏法では「物たね(種)と申すもの一なれども植えぬれば多くとなり」(御書971㌻)と説かれています。人材育成とは、励ましの種、触発の種を蒔き続ける挑戦といってよいでしょう。
ハンコック 未来は、他のどの世代よりも、若い世代の発想と努力で決まると信じます。未来はそれを必要としています。現状維持や、従来のやり方を大きく飛び越えるには、多くの労を要します。今、必要なことは、全く新しい地球規模のビジョンを創造することです。それが出来るのは、青年しかいないと思います。なぜなら彼らは、私たちのように古いやり方に束縛されていないからです。今はまさに、全く新しい挑戦の時です。
 先生が言われるように、未来のために種を蒔く時です。
池田 わが師・戸田先生は、青年を絶対的に信頼してくださる指導者でした。
 青年を信じ、青年に託す以外にない──それは、戦時中の大弾圧を、牧口門下生として、ただ一人耐え抜かれた先生の結論でもありました。
 先生は、「一人の青年が命をかければ、広宣流布は必ずできる」と、私を薫陶してくださいました。その師恩に応え抜くために戦ってきたのが、私の人生です。
 ともあれ、青年を見下したり、利用したりしては、絶対になりません。
 いずこの世界でも、青年を尊敬し、青年の持てる創造性を伸びやかに発揮できるようにしてこそ、新しい挑戦が生まれ、新しい発展が開かれます。
ショーター 音楽界の新しい挑戦という意味では、私は、即興演奏するオーケストラが出現してもいいと思っています。演奏前には楽譜を見ても、演奏中は閉じてしまうのです。
 それには、高度なイヤートレーニング(耳の鍛錬)が必要です。即興で演奏しながらも、バイオリンやその他の弦楽器を含む、全ての楽器が出す音をお互いに聴き合えるようなレベルにまで達した時、自ずと即興の交響楽が始まるのではないでしょうか。そこでは指揮者がいなくても、お互いの出す音に時間的なズレはありません。
 すでに小さな室内楽団が、これに似た試みをしていると聞きました。彼らは、たくさんのイヤートレーニングを、皆で一緒に行っています。
 実は、私たちの楽団の四人も毎晩、ステージの上で、それを行っているのです。このことを通して、今まで考えられなかったような深い自覚が生まれ、一人一人のリーダーシップが高まりました。メンバーの境涯が高まるので、各人が大きな尊敬を受けるようになり、一人一人が真にリーダーの役割を果たす楽団となると思っています。

新しい人材の誕生を世界が熱望
若い世代は“本番”で鍛えられる


池田 音楽に限らず、いかなる分野でも一人一人が勇気を持って、互いに切磋琢磨していく挑戦の中でこそ、いまだかつてない創造は成し遂げられていくものです。
 仏法では、人を幸福にする地涌の菩薩の力の譬喩として、「火は焼照を以て行と為し・水は垢穢《くえ》を浄《きよむ》るを以て行と為し・風は塵埃を払ふを以て行と為し・又人畜草木の為に魂となるを以て行と為し・大地は草木を生ずるを以て行と為し・天は潤すを以て行と為す」(同1338㌻)と説かれます。
 この大自然の働きの如く、わが生命に本然的に具わっている勇気と慈悲と智慧の力を発揮して、他者のために尽くしていくのが、菩薩の行動です。
 しかも、自分一人だけではない。それを、後に続く人々と共有し、新たな道を開いてこそ、真の菩薩です。
ハンコック よく分かります。
 ですから、私たちは、青年たちを前に押し出して、指導的な立場に立たせていかなければなりません。
 一般的に、人々は指導者が自分たちの前に立って道を示してくれることにあまりにも慣れてしまっています。自分たちでその道を発見する力を持っているとは考えられないからです。人々は自分自身の人生のために、そのような責任を担うことに慣れていません。誰かがやってくれるのを待っているのです。あるいは、多くの場合、誰か別の人が責任を取ったり、非難を引き受けてくれるのを待っています。
        ♪
池田 そうですね。
 ガンジー記念館元館長のラダクリシュナン博士は、先日、来日したインド創価学会の首脳に伝言を託してくださいました。
 ──マハトマ・ガンジーは、晩年、記念式典などには出席せず、ネルー首相など、あえて後継のリーダーたちを前面に立てて、次への流れをつくっていました。だからこそ、インドの盤石な基盤ができました。
 その意味において、SGIが「青年学会」を掲げ、若い力をどんどん伸ばしていることは、本当に見事であるし、理想的です──と。
 世界の知性は、よく見抜いておられます。
ハンコック 本当です。驚きました。池田先生が、実践の中で、若い世代に責任を持たせ、薫陶されていることは、永遠性への軌道ですね。
 日蓮大聖人の仏法が説いていることは、一次元から言えば「一切の責任を担い立つ」ということではないでしょうか。自分自身の振る舞いや、個人的な役割のみならず、社会やそこで起こっていること全てに対しての責任です。これは本当に素晴らしいと思います。
 この仏法の実践の偉大な功徳の一つは、その責務をもっと意欲的に受け入れる勇気が、自分の生命の中から湧き上がってくることを感じて、こうした責任を担うことをあまり恐れなくなることです。それは凄いことです。
池田 その通りです。
 日蓮大聖人は「一切衆生の異の苦を受くるは悉く是れ日蓮一人の苦なるべし」(同758㌻)とまで仰せになられています。
 「一人立つ精神」こそ、創価の伝統です。牧口先生は「羊千匹より獅子一匹」と叫ばれました。
 「青年学会」の意義とは、いずこにあっても、この創価の師弟の心を受け継ぐ青年が、一人、責任を持って立ち上がることです。
 その一人の青年に続いて、「二人・三人・百人と」(同1360㌻)、必ず立ち上がり、勢いを増して前進していくのです。
 そのために、私は手を打っています。青年が応えてくれています。
 だから、断じて行き詰まることがありません。
 心の継承と言えば、ショーターさんは本年六月、ブラジルを訪問された折の講演でも、ご自身を育てたジャズの先達でドラマーのアート・ブレイキーさんから学んだ信条等を、とりわけ大事に語っておられたと伺いました。
ショーター はい。アート・ブレイキーは言いました。
 「君たちは、楽器の陰に隠れることもできる。やろうと思えば簡単にできるが、僕は、ドラムの陰に隠れたりはしない。もし君たちが演奏して何も表現できないなら、それは勉強が足りないからだ。自分が接した世界で目にし、理解したことを演奏しようとしていないんだ。何も真剣に心に掛けていないんだ。だから、技術ばかり立派になろうとして、楽器の陰に隠れているんだ」と。
 私も、招かれてスピーチする時や、向上心のある音楽家たちと話す時は、音楽についてではなく、人生について語るようにしています。
        ♪
池田 味わい深いお話です。真に人間として偉大な音楽家を育てようとされたのですね。
 ともあれ、一人一人が日々、価値創造しながら、社会のため、人々のために助け合い、支え合って、より良き共同体を築いていく──その主体者は何か特別な、特定の人ではない。本来、全員が主体者なのです。
 そして、何より青年を育てる以上の社会貢献はありません。今、世界はさまざまな難問に直面しています。政治も経済も環境問題も、今までの古い考え方の延長では解決できない。新しい創造を生むための、新しい発想を持った、新しい世界市民の誕生を、世界が熱望しているのではないでしょうか。
 「平和の文化」の創出や「対話の文明」の構築といっても、その鍵を握っているのは「青年の育成」である。──私が世界の指導者や知性と語り合ってきた結論も、この一点でした。
ハンコック 「世界市民の育成」や「平和の文化の促進」という考えは未来のための土台であり、それは実に、創価教育の父である牧口初代会長の「個人への尊敬」とその視点の促進というビジョンにまで遡ることができます。
 アメリカ創価大学や創価一貫教育は、未来の教育のモデルです。世界中の多数の教育機関が、このビジョンの影響を受けるだろうと思います。
 それは21世紀にとって極めて必要なものであるという意味で、時宜にかなっています。池田先生は、不思議にも、必要な手を全て打ってくださいました。
 基盤は、できあがっています。私たちがなすべきことは、言ってみれば、先生が打ち込んでくださった点に沿って、それらを結んでいくことです。
 しかし、それは、たやすいことではありません。本当に、大きな勇気と慈悲と智慧を要するのです。私たちはこの挑戦に立ち向かわなければなりません。未来は私たちにかかっているのですから!

音楽は希望! 全人類を救う
誰もが「美の価値」の創造者


池田 ショーターさん、ハンコックさん、お二人のジャズの創造の旅路は、半世紀を超えます。
 この50年を振り返って、ジャズの世界で一番大きな変化は何でしょうか? また、これから50年後のジャズの未来の姿をどう想像されますか? これは、私たちの盟友である日本の芸術部の友から寄せられた質問です。
ショーター 何よりも大きく変わったのは、ジャズの「音」ではないかと思います。つまり、ジャズの定義および表現方法です。1920年代に始まり、30年代、40年代、50年代、60年代と、それぞれの時代に、伝統的なジャズと結びついた独自の顕著な要素と表現方法がありました。言い換えれば、「人間の心」を奏でる「音」として、ジャズはこう奏でられるべきだという、ある形式のようなものがありました。しかし、今のジャズには、そのような意味での束縛はありません。
 ただ、今でも、ほとんどのグループが、ややもすれば、「ジャズとは、こう演奏すべきもの」また「ジャズは、伝統的に、こんな特徴を備えた音楽である」と考える傾向があります。そして、そのような固定的な考え方だけで音楽が規定されてしまう場合があります。
 これからの50年間、音楽界には、大いなる創造の作業が必要とされます。未踏の道を切り拓く創造的な啓発の波が次から次へと生み出され、それらが人間社会のあらゆる分野に浸透していかなければならないと思います。
ハンコック これは大変に難しい質問ですね(笑い)。というのは、私自身がその渦中にいるからです。
 仏法では「自行化他」と説きますが、私たちは自分のために実践するとともに、他者のためにも実践すべきです。わが人生をその価値ある日々の積み重ねとして見るならば、ジャズも、全ての側面において、「自分のためと同時に他者のための実践」であり、そういう観点から見ていくように心がけています。その意味において、「即興性」や「対話性」といったジャズの特性は、熟視すべき重要な資質であると思うのです。
 私は、これらのジャズの特性は、豊かな人生を生きるために必要なものであると考えており、それらが最大限に生かされることを望みます。単に音楽演奏のみならず、日常生活の中でも生かすことができるものであることを知ってほしいのです。音楽は希望! 全人類を救う
池田 自分のためと同時に、他者のために実践する──ともすれば利己主義に流されがちな現代において、芸術も、学問も、宗教も、目指すべき本来の方向性が、ここに示されています。
 歴史家のトインビー博士が、私との対談で、核兵器や環境破壊など人類の生存を脅かす諸悪の原因は、人間の貪欲性と侵略性にあり、それは自己中心性から発すると指摘されていたことが思い起こされます。
 そして、その自己中心性とは「一人一人の心の中の革命的な変革によってのみ、取り除くことができる」と喝破されました。さらに、そのために果たす「宗教の啓発の力」に注目され、私たちの「人間革命」の思想に大いなる期待を寄せてくださったのです。
 音楽と宗教は、人間の魂を啓発するという目的を、深い次元で共有しているといってよいでしょう。
 人々を鼓舞し、励まし、勇気を生む音楽の律動は、一人のうちにとどまることはありません。一人の魂を揺さぶる音楽は、予想もできぬ速さで一気に広がり、多くの人々の心を普く潤していくものです。この音楽のみずみずしい波動性こそ、社会を若々しく蘇生させゆく源泉ではないでしょうか。
ショーター そう思います。
 よく他のミュージシャンたちが、私たちのところへ来て、「なんで、君とハービーは、そんなに若々しいのかい?」と聞きます。若い世代の人からは「あなた方は年齢からして、もっと“お年寄り”だと思っていました!」と驚かれます(笑い)。
 「9・11」の米同時多発テロの後、このような声がさらに寄せられるようになりました。これも、信仰を持った私たちが、音楽だけでなく、普段の生活においても、人に希望を贈りたいと挑戦しているからだと思います。
池田 お二人がいつまでも青年の輝きを放つのは、未来を見つめ、若い世代の育成に汗を流しているからでしょう。
 御書には「年は・わか(若)うなり福はかさなり候べし」(1135㌻)と仰せです。妙法という音律を唱え弘めゆく人生が、その通りの軌跡となることは、それこそ世界の多宝の友が示されている通りです。
 喜劇王チャップリンが、「あなたの最高傑作は?」と聞かれて、「ネクスト・ワン(次の作品さ)」と応じたことは有名です。お二人のこれからの「夢」は、何でしょうか? これは、未来部の友からの質問です。
ハンコック 私も、いつも「最高傑作は、次の楽曲であってほしいと思います」と言います。私がそのような姿勢でいるのは、「前向き」であることが常に最良だと考えるからです。
 過去に自分が何をなしたかは分かっています。やったことは既に、私の持ち物なのです。無くなるわけではありません。いわば、ポケットやカバンの中にあるのです。ここに、ずっとあるのです。しかし、次のステップをどうするか。それが最も大事なことです。私たちが踏み出す、次の一歩は何かということです。

挑戦を続ける2人のモットー
ショーター氏
常にこれから! ネバー・ギブアップ(決してあきらめない)
ハンコック氏
恐れなく! 確信と決意の人生を

        ♪
ショーター 偉大な作曲家でバンドリーダーのデューク・エリントンも同じことを語っていましたね。
 私が「これから」抱く夢は、人々と会い、人々から聞き、老いも若きも多くの人たちが、創造的作業の交流に参加することの価値に目覚め、その価値をつかむための手助けをすることです。
 その創造的作業に必要となるのが、冒険的な探究、冒険心に基づく発見、そして、感謝の心を持って未知の事柄を学ぶことです。それは、冒険心を伴った感謝の心です。これは、とても大きな仕事ですので、私には「これから」なすべきことが実に、たくさんあります。
池田 どんな立場になっても、感謝の心を忘れない人には、生命の張りがあります。その報恩の心から、後輩たちへの献身の行動も生まれます。
 法華経の宝塔品の会座には、釈尊と多宝如来のもとへ、十方分身の諸仏が無量無数の国土から、こぞって来集します。
 それは一体、何のためか?
 「開目抄」には、「未来に法華経を弘めて未来の一切の仏子にあたえんと・おぼしめす御心」(御書236㌻)であると説かれています。焦点は「未来」です。「未来」に生きゆく「青年」たちのためです。
 これが法華経の世界です。ゆえに、私たちは命ある限り、青年と共に、青年のために、勇敢に前進あるのみです。
 お二人から、日本、そして世界の若き芸術部の友にメッセージをお願いします。
ショーター 芸術部は、世界の中で人間の尊厳を高める、価値ある活動をしています。その目標は、より深いレベルで人間的な芸術を触発することにあります。
 芸術部メンバーの活動は、やがて見事に花開き、多くの人々を感動させる日が来るはずです。その時、皆が感嘆の声をもらすことでしょう。
 ハービーと私は、その手助けをしたいと、いつも語り合っています。
ハンコック そうです。私は絶えず、アメリカの芸術部の友一人一人に、特に自身の人間性の開発のために、より時間を使うように励ましています。
 人間としての成長こそが重要です。なぜなら、自己の内面にあるものが、自らの芸術によって語られる物語の源泉となるからです。
 その意味では、「あの音」や「この和音」といったことを問題にするよりも、むしろ、自分の芸術分野と異なる社会環境に生きる他の人々と交流していくことが、極めて重要なのです。
 最もよい例が、あの「スーパーマン」を演じた名優クリストファー・リーブです。
 彼は乗馬中に転落して、首から下が完全に麻痺してしまいました。しかし、その苦難ゆえに、同じく身体の麻痺に苦しむ人々に大きく貢献していくことができたのです。
 もちろん、誰も、そんな事故に遭うことは望みません。しかし彼は、事故後、その状況に対応して、新たな舞台で、自身の人生の新たな目標に挑戦し、終に、より大きな人類への貢献を実際に成し遂げました。
 私は、もし偉大な芸術家になりたければ、「最大の情熱と熱意を持って強く生きなければならない」と心から思います。
 当然、芸術の道具や技術も持たねばなりません。練習や訓練も必要です。しかし音楽家は、音楽それ自体以上に、他の人々と関わり合うことが、特に重要なのです。
池田 たとえ芸術家でなくても、汝自身が、無限にして無窮の美の価値を創造しゆく当体です。
 難を受け、試練を乗り越えながら、人々のために尽くし抜く生命は、誇り高き人間讃歌を、不滅の人生の名画を創り残していくことができます。
 それは今、言われたように、人との関わりの中で、織り成されるものです。
 仏典に登場する勝鬘夫人は、
 愛語(思いやりのある優しい言葉をかけること)
 布施(人々に何かを与えゆくこと)
 利行(他者のために行動すること)
 同事(人々の中に入って共に働くこと)という菩薩道の実践を誓い、人々の善性を薫発していきました。
 これは、お二人が世界各地で、人々のため、平和のために続けてきた音楽活動の精神にも、相通じるのではないでしょうか。
 今年、日本では、東日本大震災という、かつてない災害を経験しました。台風の甚大な被害もありました。
 未曽有の危難に直面し、今、日本の社会全体が大きく変わりつつあると、皆が感じ始めています。
 悩み苦しむ人のために自分に何ができるのか、どうすれば希望を贈ることができるのか──そう考える人が増えているのです。
 では、いかに行動すべきか。
 さまざまな方途があるでしょうが、まず「目の前の一人に心からの励ましを贈る」ことは、誰にでもできることです。小さいように見えて、真心の励ましの声は、必ず相手の心を動かしていきます。
 御聖訓には、「小音なれども貝に入れて吹く時・遠く響くが如く、手の音はわずかなれども鼓を打つに遠く響くが如し」(同808㌻)とあります。強く正しき一念から発する音声には、計り知れない力があります。その生命の脈動は、周囲にも伝わり、社会へ広がらずにはおかないものです。
 この励ましのスクラムの中心に光るのは、常に女性です。そこで、これまでジャズ界で活躍してきた女性の中で、お二人が特に挙げたい人物は、という質問もありました。
        ♪
ショーター そうですね、やはり20世紀前半に活躍したビリー・ホリデイを挙げなければなりません。彼女は、人間の尊厳性を歌ったジャズシンガーでした。その人生の生きざまや苦闘を、彼女が歌う歌の中で描き、ジャズが創造性を表現する芸術であることを示しました。さまざまな苦労があったと思いますが、人々に勇気を贈る感動的な歌をいくつも残しています。
ハンコック ビリー・ホリデイの歌は人の心を射る矢のようでした。過酷な人生を送ってきたことがよく分かります。なぜなら、彼女の歌は、どれも人間性の核心に触れる歌ですから。歌というものの本質をつかみ、その真意を汲み取る才能をもち、それを信じられないほど力強く表現するのです。その歌声はまるで「あなたの苦しさが、私にはよく分かるのよ」と語りかけてくるようでした。彼女の影響を受けた歌手は枚挙に暇がありません。
池田 宿命に泣く女性の歴史を何としても転換したい──それが、恩師・戸田先生の悲願でした。ゆえに私は「21世紀を女性の世紀に」と訴えてきました。日本でも、世界でも、この「女性の世紀」を創造しゆくリーダーが、颯爽と躍り出ていることを、私も妻も、何よりも喜んでおります。
 まだまだ、質問は山ほど寄せられているのですが、残念ながら、お二人からの授業もいったん終了となりますね(笑い)。
ハンコック 池田先生! 先生のアメリカに対する50年来のご指導の「集大成」として始めていただいた鼎談の“受講者”として、私たちを選んでくださったことに感無量です。
 先生のご精神を日常生活の瞬間瞬間の中で、私自身の振る舞いを通して示せるようにと祈っています。
 この日蓮大聖人の仏法の信仰を始めるまでは、自分が何のために戦ってきたのか気付きませんでした。まるで、それまでの私は、深い眠りについていたようなものでした(笑い)。
 以前とは異なり、今は、はるかに大きく目覚めているように感じます。道のりはまだ長いですが、もう恐れません。もっと大きな夢を目指していく自信があり、恐れず、ひたすら積極的に前に進んでいきます。
 「確信と決意をもって、自由で恐れなき人生を生きる」。それが私のモットーです。それは私に、そのような能力が自分にあることを自覚させてくれます。
        ♪
ショーター 私は、この鼎談を振り返る時、自分が池田先生の生命から発せられる言葉と智慧、脈々と受け継がれてきた日蓮大聖人の真実の教え、そして遠くは釈尊の悟りと同じ方向に、自分も進んでいるのかどうかを確かめねばならないとの思いに駆られます。私は、その道から決して逸脱しないと強く決意しています。
 私のモットーは、「ネバー・ギブアップ(決して諦めない)!」です。いつも新鮮で、色褪せないモットーです。
 初心を忘れず、「常にこれから」という「本因妙」の精神で、さらに大きな課題に挑戦し続けていきたいのです。
 今、ある音楽の制作に取り組んでいます。その歌詞の一部を紹介させていただきたいと思います。まだ推敲中なのですが……。

 広漠たる人生の大海原を
 僕らは乗り越えていく。
 山なす波浪も
 鏡のような眼に映し出された
 あの深く秘沈する実在を
 覆い隠すことはできない。
  …… ……
 さあ、思い切って
 わが視力の及ぶ範囲をも超えて
 さらに先へと
 飛翔しよう。
 そして
 あらゆる欺瞞の人生に宿るものを
 見究めようではないか! (抜粋)
池田 素晴らしい前進の息吹に満ちた詩です! 音楽を愛する心に、国境も、民族の違いもありません。音楽を聴く時、そこには、ただ「人間」がいるだけです。
 私たちは、日本人である前に、アメリカ人である前に、同じ「人間」なのです。音楽は、その共通の原点に、人類を立ち返らせてくれます。
 殉教の師父・牧口常三郎先生は、既に1世紀前に、人類の壮大な進歩の道を展望しておりました。
 すなわち「軍事的・政治的・経済的競争」から「人道的競争」への大転換です。それを成し遂げゆく、大いなる力は、「人間」に希望を贈る「音楽の力」であり、「文化の力」であり、「教育の力」であるといえましょう。今こそ、人類の魂を蘇生させゆく音楽が求められています。人々を触発し、鼓舞する“魂の人間讃歌”が必要なのです。
 私たちは、青年と共に、青年のために、恩師から学んだ「平和の曲」「幸福の曲」そして「勝利の曲」「勇気の曲」を奏でながら、広宣流布の道を前進したい。
 青年の心で創造を続けるお二人の更なる活躍を、世界の同志と共に期待しています。希望輝く未来へ、新たな調べを奏でていきましょう!
ハンコック 私たちも永遠に先生と一緒に前進していくことを誓います。今から、人生という舞台で、心躍る、新たな生命の演奏を目指し、挑戦していきます。
ショーター (演奏開始の合図)1(ワン)、2(ツー)、1、2、3(スリー)、 ♪ ♪ ♪……。〈完〉
2011-12-21 : 音楽を語る :
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