魂の人間讃歌 第3回 生命尊厳の響き

魂の人間讃歌  ジャズと人生と仏法を語る

第3回 生命尊厳の響き(2010.10.9付 聖教新聞)

万人の心を太陽の方向へ!

SGI会長
文化は人間を絶望から救う闘争
ハンコック氏
精神の力は苦難をも歓喜の詩に
ショーター氏
諦めより意欲を蘇らせる演奏を


池田 音楽は心を結ぶ。命を開きます。音楽ほど、いかなる差異も瞬時に超えて、魂の一体感を生み出し、互いに高め合っていけるものはないでしょう。
 世界最高峰のバイオリニストのメニューイン氏とお会いした折、アフリカの大地での思い出が話題になりました。氏は、離れた丘と丘の間で、太鼓の音が交互にこだましているのを聞いた。それは、仲の良い友だち同士が交わす、夜のあいさつだったというのです。音楽に脈打つ「結合の力」は、なんとロマン豊かに、なんと自在闊達に、生命と生命の共鳴を広げていくものでしょうか。
 アメリカ生まれのメニューイン氏は、ジャズとの共演も行ってこられましたね。氏は言われておりました。
 「音楽はどんなにたいへんな時代でも、なんとか私たちを力づけようと、繰り返し繰り返し励ましの言葉をかけてくれる。深い根底から発した音楽であればなおさらである」
ハンコック 音楽は「生命の尊厳」を歌う活動です。歌は詩をともなう音楽です。人間の言葉は、自分の思いを表現する手段です。人々は、その手段を使って、人間の尊厳を守る働きができます。音楽は言葉よりも、さらに自由です。何ものにも妨げられませんから、言葉を超えた働きができます。言葉に国境があっても、音楽には国境がありません。
ショーター 私も、国境を超えた音楽の力を実感しています。
 昨年、国務省とロサンゼルス市長からの依頼で、メキシコのグアダラハラに行ったのです。当時、不安定な社会状況が続いており、多少の不安もありましたが、多くの聴衆が「君たちの演奏のおかけで、みんなが楽しい気持ちになったよ」と喜んでくれました。
 若い人が多く、アンコールは5回にも及びました。私たちを招待することを企画した女性の顔も誇らしげでした。「この文化交流の企画は正しく、素晴らしかった」という自負が、彼女の表情から、ありありとうかがえました。
池田 グアダラハラですか! 懐かしいです。私も1981年に訪問しました。グアダラハラ大学では、「メキシコの詩心」をテーマに講演をしました。メキシコは、わが師・戸田城聖先生が「行ってみたいな」と夢見ていた国なのです。
 ともあれ、ジャズを「国境も時の流れも知らない音楽」(ナット・ヘントフ著、藤永康政訳『アメリカ、自由の名のもとに』岩波書店)と表現した作家がいました。
 ジャズには国を超え、世代を超えて、魂を結び合い、奮い立たせずにはおかない大きさがあり、深さがあります。
ショーター 私は、時には人々の心の奥底に訴え、諦め失いかけた希望や意欲を取り戻させ、時には人々が抱く未知への恐れを取り除き、時には不測の事態に対処する方法を提示する──そんな演奏を挑戦目標にしています。
 この文化的な覚醒作業は、着実に進めていくべきものです。私が心に刻む格言は「急がば回れ」です(笑い)。一人一人にしっかりした認識を与えることが、やがて大衆を動かすことにも通じると思うのです。
 同じことは、文化間の交流にもいえます。他の文化に触れ合うことで、人々は、さまざまな異なる観点や生活様式が存在することを学ぶのです。それによって、今日の世界には通用しない、旧来の杓子定規で偏狭な文化観を克服でき、異文化間の理解がもたらされるのだと思います。
池田 実践者だからこその卓見です。文化交流は地道です。しかし、幅広く多元的に、粘り強く持続的に積み重ねていくなかで、平和と創造の大河が必ず流れ始める。このことを、民音(民主音楽協会)の活動を通じ、私も強く実感してきました。
 民音は、この10月で創立より47周年。交流は103力国・地域を数えるまでになりました。
 東京・信濃町の民音音楽博物館には、ハンコックさんが30年以上にわたり愛用されてきた、宝の中の宝のグランドピアノを展示させていただいております。苦楽を共にされ、数多の名曲を紡ぎ出してこられた、尊い尊い戦友ともいうべきピアノです。大好きな宝器を手元から放されることは、どれほど深い真心の決断であったか。私たちは、心で涙し拝受いたしました。
 今、ハンコックさんの分身の如く、世界中からの来館者の胸に、大いなる感動と喜びを奏でてくれています。永遠性の命を帯びた至宝です。
ハンコック 池田先生のご配慮に感謝します。このピアノの寄贈を通して、私自身、素晴らしい経験をさせていただきました。
 私も、公的な活動として、外交上の緊張関係にある国で演奏会を行う機会があります。しかし、目の前の聴衆の顔が見る見る変わって、国家間の緊張など、どこかへ吹き飛んでしまうのです。ジャズに聴き入る人たちの顔には、もはや疑念などありません。聴衆の気持ちの高ぶりが直《じか》に感じられるのは、まさにそんな時です。
池田 偉大な文化大使、平和大使の貢献です。お二人は、毀誉褒貶を超越して、信念の行動を貫き通してこられた。本物です。ゆえに、人々の魂を揺り動かす響きがあるのです。
 仏法では、「賢人は、八風といって八種の風に侵されない人を、賢人というのである。八風とは、利《うるおい》・衰《おとろえ》・毀《やぶれ》・誉《ほまれ》・称《たたえ》・譏《そしり》・苦《くるしみ》・楽《たのしみ》である。そのおおよその意味するところは、世間的利益があっても喜ばず、それを失っても嘆かないなどということである。この八風に侵されない人を、必ず諸天善神は守られるのである」(御書1151㌻、通解)と説かれております。不動の賢人こそが、最後に勝つのです。
ハンコック ありがとうございます。ジャズは、黒人が経験した苦難・苦悩から生まれた創造的な音楽です。
 奴隷として連れてこられたアフリカ系アメリカ人たちは、古来のさまざまな伝統から分断されました。その音楽は演奏を禁じられ、その宗教は信仰を禁じられ、その言語は会話を禁じられました。学校へ行くことも、学ぶことも許されなかったのです。ある黒人の少女──確かソジャーナ・トゥルース(注)だったと思います──が本を読もうとしたら殴られたという話もあります。
 子どものころ、父が私を一軒の家に連れて行き、一人の老人に会わせてくれました。「この人は昔、奴隷だったのだ」と。その折、かつて奴隷所有者から文法的に正しい英語を話すことさえ認められなかったこと、「お前たちは無知のままでいいのだ」と怒鳴りつけられたことを聞きました。
池田 お父さんの重大な教育でしたね。学ぶことは、人間の尊厳の証しです。かけがえのない権利です。それを踏みにじってきたところにも、奴隷制の残酷さが表れています。
 戦争も貧困も、子どもたちから学ぶ機会を奪い取ります。第2次世界大戦を経験した私たちの世代は、それを嫌というほど味わってきました。だからこそ、若い人たちが思う存分に学べる、平和で豊かな社会をと願い、私は教育の道を開いてきたのです。
 創価学会の「創価」とは「価値の創造」であり、「学会」は「学ぶ会」です。幸福の価値、平和の価値、文化の価値を創造しゆく「学の光」を、世界の民衆が共に輝かせていく連帯です。
        ♫
ハンコック アフリカ系アメリカ人は、奴隷制によって、身にまとった装飾品こそ、はぎ取られましたが、その心臓部は切り取られませんでした。これは、特筆すべきことです。そこからブルース、ゴスペルが生まれ、さらにジャズが生まれていきました。
 そして、このアフリカ系アメリカ人の経験から生まれたジャズは、すぐに白人によっても演奏され始めたのです。これはつまり、ジャズとは、人間の生命を詩的に表現する音楽であるということです。どんな苦難をも詩的に表現してしまう人間の精神力。ジャズのリズムは、あらゆる人間の心を揺さぶるリズムなのです。
ショーター そういう意味では、ジャズ発生のプロセスは、すでに奴隷制が現れる以前からあったのではないでしょうか。一民族の言語を奪うなど、あらゆる時代にあらゆる「奴隷化」がありました。
 私は、映画「ジュラシック・パーク」の「あらゆる生命は必ず生きる道を見出す」というセリフを思い起こします。どんな奴隷化に晒されようとも、創造のプロセスは、必ず別の表現の方法を見つけ出すものです。
池田 その通りです。それこそが、挑戦と応戦、また試練と成長、そして苦難と創造という、深遠にしてダイナミックな生命の法則です。
 生命は、安閑とした順境で飛躍するものではありません。個人であれ、団体であれ、民族であれ、文明であれ、極限の圧迫を耐え抜き、はね返していく戦いのなかで、真の生命の躍進が成し遂げられる。逆境に立ち向かい、苦難を乗り越えた負けじ魂には、誇り高き勝鬨が轟きます。その象徴の魂の讃歌が、ジャズではないでしょうか。
ショーター 先生がメニューイン氏と語り合われたように、奴隷であったアフリカ系アメリカ人たちもまた、リズムに合わせて拍子を取り、それを暗号にして、互いにニュースや出来事を知らせ合いました。
 とりわけ緊急時には、農場で働く仲間同士で暗号を送り、連絡を取り合いました。ダンスをしたり、娯楽に打ち興じたりしている時でも、彼らの間では、奴隷主たちが気づかないうちに、合図が送られていたのです。
 そうした技術が洗練されて、芸術的な技巧を生み出していきました。
 たとえば、タップ(軽い叩き)は複雑なドラムの技巧を生み出しました。また、教会で歌われるゴスペルの音律や構造に改訂が加えられ、やがて、教会を離れて一般の人々の間に浸透し、新しい音楽の一部となりました。
 アフリカ系アメリカ人のミュージシャンたちは、自分たちにも音楽の才能があることに気づきました。彼らは歌手となって歌い、楽器を手にとって演奏し、音符を書いて作曲をしました。そしてジャズが生まれたのです。
        ♫
池田 万人の心を打つジャズの即興性や独特のリズムは、まさに、戦って戦って戦い抜いてきた無名の英雄たちからの宝の贈り物ですね。
 日蓮大聖人は、命に及ぶ竜の口の法難の頸の座にあって、お供した愛弟子の四条金吾に、「これほどの悦びをば・わらへかし」(御書914㌻)と悠然と仰せになられました。
 何ものにも負けない。絶望しない。一切を変毒為薬しながら、歓喜の中の大歓喜の生命の讃歌を謳い上げていく。これが仏法の真髄です。
 ともあれ大切なのは、何があろうとも、心が善の方向へ、太陽の方向へ向かっていることです。希望の調べ、勇気の曲を奏でながら、前へ前へと進んでいくことです。その人こそ、偉大な精神の王者です。
 そして、人々の心を善の方向へ、太陽の方向へと向けていくことが、私たちの戦いです。
 半世紀前のアメリカの人権闘争においても、歌が人々の心に、勝利への太陽を昇らせました。「ウィ・シャル・オーバーカム(我らは勝利する)」も、その一曲ですね。公民権運動の母と呼ばれたローザ・パークスさんをアメリカ創価大学にお迎えした際には、皆で大合唱して歓迎しました(1993年1月)。
ハンコック ジャズ・ミュージシャンのなかには、公民権運動で活動した人も多くいます。また、公民権運動の心を謳い上げた曲も数多くあります。例えば、チャールズ・ミンガスは、「フォーバス知事の寓話」という曲を作曲しました。
ショーター 黒人女性歌手のビリー・ホリデイが歌った「奇妙な果実」もあります。あの有名な一節「ポプラの木に吊されている奇妙な果実」は、人々の記憶に残りました。
ハンコック これは、黒人へのむごいリンチを歌った歌です。
 私自身も「ザ・プリズナー(囚われ人)」という曲を作曲しました。この曲名には“公民権運動で囚われた人たち”と“人間の生命が虜にされること”という二重の意味を込めました。
池田 1969年、すなわち公民権運動の大指導者キング博士が暗殺の悲劇に遭われた翌年に発表された作品だそうですね。
 私も若き日、大阪で無実の罪で投獄されました。一切の矢面に立って恩師をお守りするとともに、人間の生命を虜にする権力の魔性との断固たる戦いを、獄中で決意しました。
 キング博士の葬儀で、ハンコックさんが演奏されているジャズの名曲が流れたことも、忘れ得ぬ歴史です。
ハンコック 公民権運動には、数多くのジャズ・ミュージシャンが、さまざまな形でメッセージを送っています。人種差別への抗議をあからさまに描いた作品もあります。差別なき未来への希望を描いた曲もあります。
 この運動への人々の励ましや支援を心から願い、それを表現した曲もあります。
 こうして、いわゆる公民権運動時代には、多種多様なジャズ音楽が生まれました。1960年代のジャズは、誰の心にも深い印象を残しています。
 私自身、演奏家としての道を進みながら、同時に公民権運動に進むべきかどうかを、思い悩みました。事実、各種の行進に参加した音楽家も数多くいます。けれども、私は演奏活動があまりにも多忙であったために、行進には参加できなかったのです。しかし、心はいつもそこにありました。
 実は最近、キング博士の盟友であったビンセント・ハーディング博士から著作を頂きました。博士も先生と対談されていますが、私たちのジャズ鼎談が開始されることを知り、大切な著作を贈ってくれたのです。先生との対談が結ぶ魂の交流に、感動を覚えます。
池田 ハーディング博士は、「公民権運動」を「民主主義を拡大する運動」との名称で呼びたいと主張されていました。その運動は、世代から世代へと受け継ぎ、拡大していくべきものだからです。
 また、ハーディング博士は、歌が人々に与える「励ましの力」が、いかに大きいかを語っておられました。
 「人々は、しばしば大変危険な状況にあって『私は恐れない』と歌いました。彼らは、『恐れていない』と歌っていたのではありません。実際、しばしば恐怖に身を震わせていたからです。しかし、彼らは『恐怖心に征服されない』『我々は克服しなければならない。恐怖に我々を止めさせはしない』と歌っていたのです」 「多くの人々にとって、歌なしには、運動で遭遇した多くの困難を耐え抜くことはできなかったでしょう」と。
 まさに今も変わらぬ心で、人々に勇気と希望を贈る二人の音楽活動こそ、この魂を継承する「民主主義の行進」であると確信しています。
ショーター ありがとうございます。以前、韓国のラジオ局からインタビューを受けた折、若いアナウンサーが驚いていました。「あなたは50年も世界中でジャズを演奏しています。さらに続けることは、肉体的に可能でしょうか」と(笑い)。
 私は答えました。「どこへでも行きますよ。人々の心にインスピレーションを与える使命があるかぎり、そして、私の生命の続くかぎり」と。
 これが、池田先生の弟子である私とハービーの魂です。
        ♫
池田 嬉しいですね。
 黒人文化を宣揚した大詩人ジェイムズ・ウェルドン・ジョンソンが1900年、戸田先生の生誕の年に発表した詩が、私は大好きです。
 「ことごとくの声をあげてうたえ
 天地が鳴りひびくまで
 自由の旋律にあわせて
       鳴りひびくまで」
 「生まれたばかりの
      新しいわれらの日の
 昇る太陽に顔をむけ
 勝利をこの手にするまで
       行進し続けよう」
 すべての人間が等しく尊厳を謳歌していく「生命の世紀」に向かって、共々に前進していきましょう! 自由の旋律を轟かせて! 


メニューインの言葉は『人間と音楽』別宮貞徳監訳(日本放送出版協会)。J・W・ジョンソンは『世界詩人選集4』嶋岡晨・松田忠徳訳(飯塚書店)。

(注)ソジャーナ・トゥルース(1797~1883年) 奴隷の子として生まれ、奴隷制廃止と女性解放に戦った黒人女性。ソジャーナは「自由への旅人」、トゥルースとは「真実」の意。火星のロボット探査車に、その名がつけられている。
2010-10-22 : 音楽を語る :
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