世界との語らい 第37回

第37回
英国の名門 クイーンズ大学 グレッグソン学長
                (2009.9.17付)
教育こそ最大の解放者
知識を人類に還元=世界市民の育成を


 アイルランドの誇る大詩人イェーツは絶唱した。
 「今こそ、わが魂を磨こう。高邁なる“叡智の殿堂”で、つとめて学ぶことによって」
 人の世に、有為転変の波は荒く、毀誉褒貶の風は激しい。
 その風波《かざなみ》を超克して、不滅の価値を創造しゆく道は、何か。学び続けることだ。磨き合うことだ。そして、人を育てることだ。
 20世紀最高峰の文豪と仰がれる、このイェーツも名誉博士として愛してやまなかった“叡智の殿堂”が、北アイルランドのクイーンズ大学ベルファストである。
        ◇
 荘厳であった。壮麗であった──新緑まばゆき創価大学の本部棟に伝統の曲が流れた。それは、クイーンズ大学の卒業式を寿ぐ旋律であった。
 本年の5月18日である。
 本国での儀典に則って、私に対する「名誉博士号」授与式を厳かに挙行してくださった。会場へと進む両大学の列席者の一番前には、創価大学の学生代表の凛々しき姿。ピーター・グレッグソン学長は、全責任を担うが如く、行列の最後尾におられた。
 「学生が先頭」──これも、クイーンズ大学に流れ通う、崇高な精神の象徴であった。
 式典におけるグレッグソン学長の第一声は、アイルランドの偉大な劇作家バーナード・ショーの名言であった。
 「平和は、戦争より良いだけではなく、戦争より、はるかに至難の業なのである」
 そこに学長が込められた。平和への断固たる不退の決意に、私は強く胸を打たれた。
 「破壊は一瞬 建設は死闘」。なかんずく平和の建設という最大の死闘に、いずこにもまして勇敢に挑んでこられたのが、同大学であるからだ。
       ◇
 北アイルランドでは、30年以上にわたり、対立と分断の紛争が繰り返されてきた。その終結と和平の前進に尽力してきた「平和創出の大城」が、クイーンズ大学である。
 1845年、ビクトリア女王により創立され、1908年に総合大学となった。社会の各分野をリードする、力ある俊英を育成してこられた。医学界の先駆者、政治指導者、ピュリツァー賞受賞者、オリンピックの金メダリスト、著名な俳優等、誠に多彩な人材群である。
 この栄光の名門学府を、さらなる躍進へとリードしてこられたのが、グレッグソン学長だ。「英国王立工学アカデミー」の評議員にも選出された、最優秀の研究者である。
 2004年8月、46歳の若さで学長に就任すると、研究機関としての一段の拡充を進められ、全英トップ20大学で構成される「ラッセル・グループ」加盟にも到った。
 大学の教職員の4分の1が、高等教育アカデミーの会員とも伺っている。
 「教育とは“クイーンズ大学で体験すること”の異名」との自負が、誇り高い。

開かれた大学
 クイーンズ大学は、その「使命」として、文化・社会・経済の発展に貢献することを、明快に掲げている。なかでも、学生たちが中心となって舞台芸術や視覚芸術などを披露する芸術祭「ベルファスト・フェスティバル」は、世界的に高く評価される。
 この祭典は、厳しい紛争中も決して中断されることはなかった。執念の持続であった。
 「暴力」は人間を引き裂く。
 「文化」は人間を結び合う。
 この芸術運動が、どれほど敵対する人々の心と心を結び、和平と連帯への道標《みちしるべ》となったことか。それは、さらに「アルスター(北アイルランド)・ルネサンス」と謳われる新たな文芸興隆の拠点ともなったのである。
 詩の朗読会やパンフレットの出版などを通じて、いまだ無名の若き詩人を次々と世に送り出していった。クイーンズ大学の卒業生で、後にノーベル文学賞に輝く国民詩人ヒーニー博士も、その一人だ。
 時代がどうあれ、社会がどうあれ、今この場所で、直ちにできる平和への闘争がある。それは、目の前の一人の青年を励ますことだ。その若き生命から、力を引き出すことだ。
 授与式に先立つ語らいで、グレッグソン学長は晴れ晴れと明言された。
 「文化・芸術は平和を建設する偉大な要素です」
 「北アイルランドの文化、わが大学の文化は、私たちの核心であり、私たちの心です」
 それだけに、学長は、私が創立した民音を訪問されて、多くの啓発を受けたとも語ってくださった。
 ともあれクイーンズ大学は、歴史からの挑戦に敢然と応戦する中で、世界に示された。
 このキャンパスがある限り、この学生たちがいる限り、必ず明るい未来が開ける──そう市民に信頼され、地域に希望を贈ることこそ、「開かれた大学」の使命である、と。
        ◇
 創価大学では、この夏も、市民の方々と「学ぶ喜び」を分かち合う「公開講座」が活発に行われた。工学部で進めた桑の新品種の開発は、桑都と呼ばれてきた八王子市の経済活性化にも寄与している。
 地元の防犯・安全のための地道な取り組みや、地域と世界を結ぶ「周桜観桜会」の開催等々、八王子を愛する学生有志の英知の行動も清々しい。
 アメリカ創価大学でも、「インターナショナルフェスティバル」が伝統の地域行事になりつつある。今年の5月には、1万人を超える市民が集まってくださった。この
 「文化の祭典」はオレンジ郡教育局の文化プログラムに指定された。地元有力紙でも報じられるなど、広く市民に愛され、親しまれている。
 「知識は社会に貢献しなければ意味がない」──グレッグソン学長と深く一致した。

師恩に報いる
 学長の祖父君は、機械技師協会の会長を務めた大学者であられた。学長は、幼い頃から祖父の研究に魅了され、工学を志したのである。
 その若き学才は、学生時代の師匠・フラワー教授との出会いで、大きく花開いた。
 「師は私に教えてくれました。確固たる証拠に裏付けされた着想こそ、新たなる学問の地平を開く、と。
 そして私は、師から学びました。若い学生たちを、やる気にさせるには、どうしたらよいか、を──」
 探究においても、教育においても、この師匠の教えを、学長は誠実に実践されている。
 「師匠の存在は、いかなる人にとっても大変に重要なものです」──学長は、授与式の前日に訪問された創価学園で、学園生たちの真心の歓迎に応えて語ってくださった。
 「私が受けた数々の師の恩を言葉で語り尽くすことはできません」。師恩に生き抜く学長の心は、あまりにも尊い。
 私はベルファスト市が掲げるモットーを思った。
 「これほどの恩に、何をもって報いるべきか」
 わが胸中の師と常に語らいながら、報恩の誠を尽くす。
 そこには、人間の最も高潔にして尊貴なる生命が、絶えることない光を発するのだ。

学生第一!
 「創価教育の価値観は、クイーンズ大学の価値観と深く共鳴するものです」
 授与式で、グレッグソン学長は、そう宣言なされた。
 対話が弾むほど、クイーンズ大学と創価大学の共通の理念が響き合った。
 その一つは「学生第一」。
 「教育は、学生あってこそ」との学長の信念は固い。
 一個の人格として、学生に最大の敬意を払う。そして、学生が可能性を最大に発揮できるように献身する。この責任感に徹底しておられる。
 創価大学との学術交流協定についても、「紙の上だけの協定ではなく、人の人生そのものを大きく変革するものだと確信しています」と言われた。
 式典で学長は、私の敬愛してやまぬマンデラ元大統領の言葉を紹介された。「教育こそ最大の解放者なのです」──。元大統領もクイーンズ大学の名誉博士である。「教育に携わる者は、この叫びを、決して忘れてはならない」と、学長は結論された。
 授与式の翌日には、両大学主催のシンポジウムが開催された。協定を現実の上で一つ一つ、時を置かず前へ進めていかれる学長の電光石火の行動力に、皆が感嘆し敬服した。
        ◇
 両大学の二つ目の共通点は「世界市民の育成」である。
 クイーンズ大学には、世界90力国から2万4千人の学生が学ぶ。「クイーンズ・ファミリー」と呼ばれる、10万人を超える卒業生の輪は、世界に広がっている。創大からの留学生も、温かく迎えていただいており、感謝に堪えない。
 大詩人のヒーニー博士も、世界に開かれた母校を誉れとされた。大学とは、「土地の言葉」だけではなくして、幾つもの「普遍の言語」に出会い、マスターしていく環境であると振り返つておられる。
 「ローカル(地域)に生き、グローバル(地球大)に思考する詩人」と評価される詩心の原点は、紛れもなく母校クイーンズ大学にあったのだ。
 “弟の大学”たる創価大学でも、新たに「世界市民育成プログラム」が開設される。
 グレッグソン学長は、創価大学には「世界市民を育成するための環境が整っています」と評価してくださっている。
 学園生についても「学ぶことに対して大いなる熱意を持っている」、そして「国際的
な人材になりたいという強い意欲を持っている」と讃えてくださった。国を超えて、青年を愛し、見守る大教育者の慈愛に満ちた慧眼だ。
        ◇
 「クイーンズは壮大な旅の途上にあるといえましょう」
 学長はこう語られながら、さらなる高みへ前進される。
 式典の日、東京からも堂々たる富士山の雄姿が見えた。「4度目の来日にして、やっと見ることができました」と学長の顔がほころんだ。
 富士の如く嵐にも微動だにせぬ、大信念の人格を鍛え上げる──。共に目指す、教育の勝利の真髄が、ここにある。

 白き雲
  彼方に見ゆる
   富士の山
  威風厳たる
   不滅の勝者と

〈参考文献=風呂本武敏編『アイルランド・ケルト文化を学ぶ人のために』世界思想社〉

 ピーター・グレッグソン(1957年~)
 スコットランド生まれ。ロンドン大学インペリアル・カレッジで材料科学を専攻し、博士号を取得後、サウサンプトン大学へ赴任。航空宇宙材料学の教授を務める。 96年、英国素材鉱物採掘研究所「ローゼンハイム・メダル賞」受賞。サウサンプトン大学副総長補、英国王立工学アカデミー特別研究員などを経て、2004年にクイーンズ大学ベルファスト学長兼副総長に就任。アイルランド王立工学アカデミーの特別研究員、公認経営者協会員を務めるなど、多方面で活躍する。
2009-09-20 : 世界との語らい :
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