池田名誉会長の人物紀行 第8回

池田名誉会長の人物紀行 「歴史の巨人」と語る
             (2009.8.27付 聖教新聞)

第8回 革命と情熱の詩人 バイロン


勇み立て! 青年ならば前進だ

 若き日に
  読みたる感動
    バイロンの
  姿を見つめむ
    君らの英知に

 青春の魂は恐れを知らぬ。
 若き英国の詩人バイロンは、渾身の叫びを上げた。
 「我れ絶望に屈服せず!
 我れ我が苦悩と戦いぬ」
 青年ならば、前進だ。勇敢に前へ進む限り、希望という友が微笑み、ついてくる。
 バイロンは18世紀末から19世紀初めの激動の世界を駆け抜けた。フランス革命があり、反革命の応酬があった。英傑ナポレオンの台頭があり、その没落があった。
 時代は大きく揺れ動いていた。だが若き勇気の詩の英雄は、社会を翻弄する激流にも決して屈しない人間の尊厳を、勇壮に謳い上げたのだ。
 詩人は、民衆が苦悩する歴史の激戦地へ馳せ参じて、正義の旗を決然と打ち立てた。
 波瀾万丈の36年──。その大情熱の闘争は、「19世紀のヨーロッパの民衆運動」を力強く鼓舞していったと讃えられる。
 今、21世紀の世界市民の民衆運動を快活に創り広げているのが、創価の青年だ。
        ◇
 青春の命は、道を求める。
 バイロンは見抜いていた。
 「野心の生命も辛労もすべては悉く空無なり」
 「善は空しき名にあらず」
 わが命を燃焼して悔いなき、確かなものとは何か──真の生の充足を求めて、バイロンは人生を旅した。
 彼が実質的な最初の詩集を発刊したのは、19歳である。
 「詩人が留意すべきことは」
 「喜ばせることと向上させることだ」──やがて、詩心の深き使命を自覚する。
 私かバイロンの書を手にしたのは、戦後まもない、神田の古本屋街である。当時の読書ノートにも、書き留めた。
 幸運にも、私は19歳にして、永遠の師・戸田城聖先生に巡りあうことができた。
 「正しき人生とは」。私が尋ねると、簡明直裁な、しかも誠実な答えが返ってきた。
 この人なら、信じられる!
 その感動と感謝を、私は即興の詩に託して朗誦した。
 「嵐に動かぬ大樹求めて
 われ 地より湧き出でんとするか」
 天あり、地あり、師匠あり──最も正しき生命の歓喜と向上の道へ! わが青春の師弟の旅は、ここに姶まった。
        ◇
 それは1972年の5月。大歴史学者トインビー博士は、私との対談が一区切りつくと、御自宅の側《そば》のホーランド公園へ案内してくださった。眩き緑の中を、博士ご夫妻と家族のように散策した。
 この公園は、19世紀のイギリスの政治・文学に大きな影響を及ぼしたホーランド卿の邸宅があった場所である。そこは、バイロンはじめ最高峰の文化人らが集い合う「対話の広場」であったという歴史を、博士は私に紹介してくださった。
 博士とは、イギリスの教育が誇るパブリックスクールをめぐっても語り合った。
 トインビー博士はウィンチェスター校の出身。バイロンはハロー校の出身であった。
 それぞれ、試練の挑戦に雄々しく応戦し、不撓不屈の若き心身を鍛えた母校である。

若き「負けじ魂」
 青春は悩みを力に変える。
 バイロンは、生まれつき足が不自由であった。それゆえ、いわれない悪口を浴びせられた。誇り高いバイロンの心は、傷つき、苦しんだ。
 しかし、その分、若き「負けじ魂」を燃え上がらせた。水泳やクリケットの名手として、敢然と活躍する。
 また、当意即妙の機知に富んだ堂々たる雄弁を磨き、周囲を心服させていった。
 青年には柔軟な頭がある。その頭を思う存分に使うことだ。愚昧ではならない。どんな局面でも、活路を開く智慧は泉の如く汲み出せるのだ。
 自ら苦労を重ねたバイロンは、卑怯ないじめを断じて許さなかった。ある時、強暴な上級生が一人の下級生を殴りつけていた。通りかかったバイロンは「半分、僕を殴りたまえ」と申し出たのである。
 バイロンが庇った少年は、のちに大首相として名を上げるロバート・ピールである。
 虐げられた人の側に立ち、傲り高ぶる者に立ち向かう。バイロンの一貫した信条だ。
 学園時代に正義の闘魂を錬磨したバイロンは、やがて英国上院で熱弁を振るった。産業革命による機械化に伴い、解雇された労働者を擁護した名演説は有名である。権力者の横暴、欺瞞、虚偽、虚栄を、痛烈に攻め抜いた。
 バイロンは叫んだ。
 「私の義務は、正しき目的のためにすべてを賭することにある」
 今春、私は創価学園の愛唱歌「負けじ魂ここにあり」に新たに5番の歌詞を贈った。
 「正義の誇りに 胸を張れ」──この一節には、バイロンを凌ぐ英雄詩人よ、躍り出でよ!との願いも込めている。

世界が前にある
 青春の勇気は無敵である。
 「如何なる空の下をも行かん、/我に洸《こう》たる勇心あり」
 「勇気は如何なることでも成し遂げるものだ」──これが、バイロンの心意気であった。
 新しい詩歌の道を創り開くバイロンは、卑劣な匿名の悪罵を浴びせられた。
 文豪ビクトル・ユゴーも、そのバイロンを偲んで、「凡ての勝ぐれた人々のように、たしかに慥《たしか》に讒謗の餌食となった」と綴っている。
 しかし、誹謗されて萎縮するようなバイロンではなかった。ならば、いまだかつてない大傑作を生み出して、あっと言わせてみせると、いやまして闘志を奮い立たせた。
 惰性や堕落や嫉妬が渦巻く既成の権威に、自分が負けてしまえば、後に続く新しき世代の道が閉ざされてしまう。その先頭に立って、堅忍不抜の努力と開拓を重ねたのだ。
 バイロンは「全世界がわたしの前にある」との気概で、心広々と精神闘争に打って出た。
 壮大な長編詩「チャイルド・ハロルドの遍歴」、詩劇「マンフレッド」、叙事詩「ドン・ジュアン」等々──何ものにも縛られぬ魂の自由を謳歌し、人間精神の勝利を宣言した詩作は、狭小な悪評などものともせず、全世界からの賞讃を勝ち得ていった。
 かのドイツのゲーテも、ロシアのレールモントフも、日本の高山樗牛も、バイロンを激賞してやまなかった。
 若き世界市民は勝った。
        ◇
 青春は最前線に躍り出る。
 バイロンの勇戦が世界史に不滅の光彩を放った時──。それこそ、ギリシャ独立闘争への参加であった。
 当時、ヨーロッパ文明発祥の大恩の天地ギリシャは、大国の軛の下にあった。
 隷属から立ち上がったギリシャの勇士の陣列に、世界の民衆詩人たるバイロンは、熱き血潮を燃やした。
 ──時は来た。今こそ行動の哲学を完成させゆくのだ。
 さあ行こう!
 バイロンは、私財を擲ち、自ら義勇軍を率いて、ミソロンギの天地へ上陸した。
 1824年のことである。
 戦況は、悪戦苦闘の連続であった。それでもバイロンは忍耐強く陣形を整え、率先の行動で同志を励ました。
 「自由を欲するものは、自ら起って戦わねばならぬことを知らないのか。/勝利は自らの腕によって得られるのだということを知らないのか」
 困難が起こるほど、バイロンは生命の充実を感じた。民衆のために、苦労して戦うほどの名誉はないからだ。
 「青春を悔いるならば、なにゆえに命を永えるか」
 甘ったれた青年には、何もできない。いざという時、狡賢く傍観する臆病な青春は、佗しい後悔を残すだけだ。
 使命の戦線に勇んで駆けつけ、若き生命を捧げゆけ!
 これが、バイロンの不退の決意であった。誉れ高く一人立つ獅子の勇気を、バイロンは謳い、そして体現した。
 学会精神と響き合う心だ。
 「革命は死なり」とは、戸田門下の青年の覚悟であった。
 ゆえに私は青年部の室長として、聖教新聞に「革命詩人・バイロン──生涯を情熱で貫く」と題し寄稿した。
 昭和32年6月、学生部誕生の直前である。夕張炭労事件に続いて大阪事件が競い起こらんとする渦中であった。
 バイロンを通して「実行だ、闘争だ、前進だ」と訴えた私の師子吼に、全青年部が応え、猛然と立ち上がってくれた。今も同じだ。

強気で攻めよ!
 青春の勝利とは、不滅の栄光を残しゆくことである。
 バイロンは、志半ばにして病に倒れた。
 「進め! 勇め、我に倣って進め! 恐れるな!」
 これが遺言となった。最後の一瞬まで、強気で攻めるのが、勇者の真髄である。
 その気迫は、死によっても消え去ることはなかった。
 バイロンの自由と正義の戦いは、やがて世論を動かし、政治を動かして、祖国イギリスはギリシャ支持の声明を発するに至った。そして、ついに独立は成ったのである。
 ギリシャの国民の手で建てられた「英雄の園」には、バイロンの名を刻印し、讃える大理石の柱がある。
 「ここに勇者の碑あり、彼は自由を愛したり、ゆえに来たりてギリシャのために死せり」と。
 民衆から捧げられる感謝こそ、青年の永遠の誉れだ。
 「私の中には、拷問にも時にも屈しない何か、この身が滅んでも生きつづける何かがある」──バイロンの英国の墓碑に刻まれた詩句である。
 ゲーテは「バイロンの大胆さ、勇敢さ、雄大さ」を讃えた。大作「ファウスト」にも、バイロンをモデルとする青年を登場させている。
 その青年は叫ぶ。
 「ながめているだけなのか
 いや、苦難をともにする」
 「すべての戦う人びとに、
 ぼくの参加が大きな力となるように!」
 「いざ、彼の地へ!
 誉れに向かって、道はひらかれている」
 創価の青年よ! 未来の人類から仰がれゆく、大いなる勝利の歴史を、断固、残し飾りゆけ! バイロンの如く!


❶丸川仁夫他訳『バイロン全集第5巻』那須書房❷岡本成蹊他訳『バイロン全集第3巻』③東中稜代著『バイロン初期の風刺詩』山口書店④阿部知二訳『世界詩人選4 バイロン詩集』小沢書店❺熊田精華他訳『バイロン全集第4巻❻岡本成蹊他訳『バイロン全集第1巻❼榎本秋村訳『ユウゴオ論説集』春秋社書店⑧田中栄一訳『バイロン』評論社❾アンドレ・モウロア著、木村毅訳『バイロン』改造社⑩鶴見祐輔著『バイロン』潮文庫⑪笠原順路編『対訳バイロン詩集』岩波文庫⑫エッカーマン著、山下肇訳『ゲーテとの対話(中)』岩波文庫⑬池内紀訳『ファウスト第2部』集英社文庫⑭山下肇他訳『ゲーテ全集3』所収、潮出版社。
白抜き文献は現代表記に改めた。
他に『阿部知二全集第13巻』河出書房新社、楠本晢夫著『永遠の巡礼詩人バイロン』三省堂、等を参考にした。
2009-09-04 : 人物紀行「歴史の巨人」と語る :
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